Bordigheraボルディゲラの庭

モネに衝撃を与えた光の風景。
その名はボルディゲラ。

1840年生まれの、クロード・モネ。
その生涯の大部分をセーヌ川沿いで送り、制作してきましたが、43歳の時、リヴィエラとして知られる北イタリアの地中海沿岸にルノワールとスケッチ旅行に赴きます。その後、1人でも再訪し、3ヶ月もの間、制作に没頭します。特に風光明媚なボルディゲラには長く逗留し、帰るころには30点以上の作品と一緒でした。この作品群は好評を博し、ボルディゲラへの旅は、その後のモネの作品や、ジヴェルニーでの庭作り、彼の人生までにも影響を与えたと思われます。

ボルディゲラの風景を描いたモネの絵。日差しを浴びてうねる木々の向こうに街と海が見える

あらゆる物が玉虫色にきらめき、
パンチ酒のような赤色の炎を上げている。
素晴らしい風景だ。

モネがボルディゲラについて、画商である友人のデュラン=リュエルに送った手紙の一文です。「たぶん青とバラ色を嫌う者たちをわめかせることになるだろう。というのも僕が描こうとしているのは、まさにこの夢のような光、この輝きなのだから。」言葉は続きます。「僕はこの土地にすっかり魅了されている。」

モネは新しい主題にすっかり興奮し、心を奪われているのが分かります。「やっと、風景を本当に感じられるようになったので、思い切って桃色と青色の色調をすべて取り入れようと思う。ここはまるで桃源郷だ、すばらしい。」

主題、構図。そして色彩に変化をもたらし、
その後のモネの作品を変えた旅。
それがボルディゲラでの3ヶ月だったようです。

モネは地中海の強烈な色彩を自分のものとし、作品の中に取り入れていきます。原色の瑞々しく美しい色彩が眩しい作品は大人気となり、また評論家たちにも高く評価され、モネの名声はますます高まっていきます。モネは、地中海の風景を描くには「ダイヤモンドと宝石のパレット」が必要だったと語っています。モネらしい独特な言い回しですが、ボルディゲラの煌めきを前にした興奮と、それを我がものにし、満足した想いが伝わってきます。

旅から戻ったモネの作品は、以前にも増して明るくなっています。またモネは浮世絵の構図をよく消化して作品に応用してきましたが、ボルディゲラの旅行で、さらにこの傾向に拍車がかかったとも言われています。

ボルディゲラの風景を描いたモネの絵。賑やかなヤシの木の林の向こうに山脈が見える

2020年高知県北川村に現れる
ボルディゲラの庭。
光り輝くモネの作品から発想した、世界で1つの庭です。

クロード・モネが43歳の時にルノワールと旅した地中海のボルディゲラ。その光と色彩に魅了され、興奮とともに描き上げた30点以上の作品。

2008年。北川村「モネの庭」マルモッタンでは、モネがボルディゲラの旅に材を取った作品とその地中海の世界をテーマにした世界でもはじめて「光の庭」を出現させました。しかし、12年という長い年月により、地中海の乾いた世界観が薄れてきたことに伴い、2020年、20周年記念事業として、その輝きを取り戻すために「光の庭」を全面リニューアルすることにいたしました。

モネの作品、ボルディゲラ、地中海の世界をもう一度見つめ直すことにより、「光の庭」は美しい地中海の光と植栽とモネの作品を感じることのできる「ボルディゲラの庭」として生まれ変わります。北川村の起伏に富んだ地形を利用し、ヤシやオリーヴなどの地中海付近のトロピカルな植栽と高知の植栽をあわせるユニークな庭造りにもチャレンジしています。

海や山の佇まいも借景として庭の一部と考え、高知の自然のなかで感じる地中海を、新たなモネの庭として、楽しんでいただければ、モネの人生でも重要な出来事であったボルディゲラへの旅を、この北川村モネの庭で感じていただければ、そして花の庭、水の庭にもない「ボルディゲラの庭」の素晴らしい世界へ旅していただければ幸いです。

参考文献

  • カーラ・ラックマン, 岩波世界の美術モネ, 岩波新書2003, 352
  • シルヴィ・パタン, モネ—印象派の誕生, 創元社, 1997, 194
  • 安井裕雄, アート・ビギナーズ・コレクション もっと知りたいモネ生涯と作品, 東京美術, 2010, 80